ごま油が酸化しにくい理由とは

ごま油の酸化されにくい性質は、もともとごまに含まれているリグナンの一つ、セサモリンによります。太白ゴマ油の場合は、セサミノールに変化し、焙煎ゴマ油の場合は、セサモールに変化します。ただ、セサモールは、時間の経過とともに減少するので、セサモールだけではないと考えられています。

ごま

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ごま油にはビタミンEがわずかしか入っていないがなぜ酸化されにくいのだろう

ビタミンEとして体の中で働くのはα-トコフェロールです。

ところが、ごま油に含まれるビタミンEは大豆油やえごま油より少ないという記事を書くときに調べたのですが、タイトル通り、ごま油のビタミンEはとても少ないのです。

ごま油の抗酸化力はビタミンEが多いからだと本で読んだのですが、酸化されやすい油だと知られている大豆油とえごま油と比較してみると、多くない、い...

表の一部を切り出して持って来ました。

大豆油もえごま油も酸化されやすい油ですが、特にえごま油は酸化されやすい油です。使ったことがある方ならご存知だと思いますが、冷蔵庫に入れて置いても酸化してだんだん魚くさくなって来ます。

そのえごま油と比べて、ごま油はすべてのビタミンEが少ないのですが、抜群の抗酸化性を持っています。

ということは、ごま油の酸化されにくい性質に、ごま油に含まれているビタミンEはほとんど貢献していないということになります。

100g中の栄養成分
食品成分 大豆油 えごま油 ごま油
α-トコフェロール 10.4mg 2.4mg 0.4mg
β-トコフェロール 2mg 0.6mg Tr
γ-トコフェロール 80.9mg 58.6mg 43.7mg
δ-トコフェロール 20.8mg 4.6mg 0.7mg
※日本食品標準成分表2015年版(七訂)から引用

ごま油の抗酸化性のもとになる物質

ネットで探したゴマの食品科学という論文に、ごま油の強い抗酸化性の原因となる物質を探索した記録が詳しく書かれていました。

ゴマリグナンの一つセサモリン

ごまにはリグナンとしてセサミンとセサモリンが、どのごまの種子にも含まれています。セサミンはサプリメントでよく知られていますが、この記事では関係がないのでふれません。

セサモリンがこの記事では重要な物質です。セサモリンは、ごま種子には0.2~0.3%(重量)含まれています。構造式はこれです。

セサモリン

これから構造式がでてきますが、構造式が嫌いな方も、形が似ているとか、長さが短くなったなど見て感じていただければよいと思います。形が似ているものは働きも似ています。

セサモールは市販油にほとんど含まれていない

これまでこのゴマの酸化安定性については,ゴマ特有のフェノール性物質,セサモールによるものであると一般に理解されてきた.

ところが,セサモールは古い文献でも,又,我々の最近のHPLCによる分析でも,市販のゴマ油には,ほとんど含まれていないことが,明らかにされている.

そこで,著者らは改めて各々のゴマ油と併せてゴマ種子成分の酸化安定性について究明を行った.

セサモールはこんな構造式です。

セサモール

ところが、このセサモールは、市販のゴマ油にはほとんど入っていないことがわかりました。では、何が抗酸化性のもとになるのか。

そこで、著者らが調べた結果、セサミノールという新しい物質が見つかりました。

セサミノール

ごま油は製造工程で抗酸化物質ができる

ごま油には、ゴマサラダ油と、色と香りのついた焙煎ゴマ油がありますが、抗酸化作用をもつ成分は、それぞれ違います。

  • ゴマサラダ油の抗酸化成分は、上で紹介したセサミノールです。
  • 焙煎ゴマ油の抗酸化成分は、セサモールです。

あれっ、さっき、セサモールは市販のごま油にほとんど入っていないって書いていたじゃない?

なぜでしょう?

温度が上がると抗酸化成分が増える

ゴマサラダ油は、生ゴマを搾った後、油を精製する工程で温度が上がります。このときにセサミノールができます。

また、焙煎ゴマ油は、最初に原料となるごま種子を焙煎した時に温度がかなり上がります。それを搾って製品化された時には、セサモールの量は多くありません。しかし、できた焙煎ゴマ油を加熱すると、セサモールが一時的に増えます。時間経過とともに減少します。

ゴマサラダ油にはセサミノール

ゴマサラダ油とは、生搾りの太白ごま油のことです。色や香りがついていないごま油です。
ごま種子には微量しかなかったセサミノールが、生搾りした油を精製する工程でかなり増えることがわかりました。

市販ゴマサラダ油(生搾り油)には,セサモールは殆どないが,強い酸化安定性を示す.その理由を調べて,著者らは,新しい抗酸化性物質セサミノールがかなり多量含まれており(0.1%前後),これがゴマサラダ油の酸化安定性の主要因となっていることを明らかにした.

しかし,セサミノールは,種子中には,微量しか検出されなかったにもかかわらず,生搾り精製油中に多量検出されたことは,非常に興味ある問題であった.

そこで,ゴマサラダ油精製過程中の各段階でのセサミン,セサモリン,セサミノールの含量を調べてみると,表2に見られるように,脱色工程で,リグナン類に著しい変化の起こっていることが明らかになった.

表2は、左端の列に書かれていた製造工程が英語表記されていたので、日本語に直しました。原油から脱臭に向かって工程が進みます。脱色、脱臭の工程で油は高温になります

表を見るとわかる通り、脱色工程でセサモリンは検出されなくなり、代わりにセサモールとセサミノールが増えます。

表2:ゴマサラダ油精製工程のリグナン類およびトコフェロールの変化(mg/100g oil)
セサミン エピセサミン セサモリン セサモール セサミノール トコフェロール
原油 813.3 0 510.0 4.3 0 33.5
脱酸 730.6 0 468.0 2.5 0 23.4
脱ガム 677.8 0 424.8 0.7 0 22.6
脱色 375.5 277.6 0 46.3 81.9 21.8
脱臭 258.3 192.6 0 1.7 62.7 18.4
※「ゴマの食品科学」日本食品工業学会誌 第35巻 第8号による
  • 脱酸は、アルカリを混ぜて、遊離脂肪酸を石けんに変え、抜く工程です。
  • 脱ガムは、温水を入れて主に水に溶けるリン脂質を抜く工程です。
  • 脱色は、活性白土を使ってクロロフィルやカロチノイド系の色素を吸着させて脱色します。この時、油を100~200℃に加熱し、10~20分接触させた後に濾過分離します。(出典
  • 脱臭は、高温・高真空の状態で水蒸気を吹き込み、不快な臭いや呈味物質を除去する工程です。230℃程度にします。

セサモリンからセサモールとセサミノールができる

即ち,セサモリンが消失してセサモール及びセサミノールが著量生成すること,及びセサミンの約半量がエピ化することである.(中略)

また,脱色時にセサモールが,セサモリンより生成することは, BUDOWSKIらにより報告されていた.

しかし,新規抗酸化性物質のセサミノールが脱色時に多量生成したことについては,全く未知のことであった.

この後、著者らは、セサモリンからセサモールとセサミノールが生成することを確かめる実験をしていますが、それは省略します。

結論は、セサモリンからセサモールとセサミノールが生成する。

また、文中にセサミンが出てきますが、この記事では関係ありませんので無視していただいてよいです。

まずは、セサモリンの構造式を載せます。
セサモリン

セサモリンからできる、先ほどのセサモールです。途中で切れたなという形です。

セサモール

こちらもセサモリンからできるセサミノールです。セサモリンと見比べてください。セサモリンの上の環についてた酸素(O)がなくなり、代わりにヒドロキシ基(OH)がついているのが違いです。わずかな違いです。

セサミノール

ご参考まで、セサミンとエピセサミンの構造式を書いておきました。違いは立体構造だけで分子構造はなにも変わりがありません。セサミンとエピセサミンについてはこの記事と関係がないので無視していただいて結構です。

セサミン
エピセサミン

焙煎ゴマ油にはセサモール

セサモールは焙煎油に含まれていますが、量は少ないです。焙煎油の酸化安定性を説明できるほどではない。

焙煎ゴマ油は,前述のゴマサラダ油とは異なり脱酸,脱色,脱臭などの工程がないのでセサモリンがそのまま精製油中に残存している.

セサモールは,ゴマサラダ油には殆どないが,焙煎油中には,原油,精製油ともに存在する.これは,焙煎の加熱過程で,セサモリンの一部が分解されて生成したものと考えられる.

焙煎油は非常に高い酸化安定性を持つが,それは,このセサモール含量だけでは説明できない.おそらくトコフェロールの協力効果とこれに焙煎によるメラノイジン成分の関与もあるものと推定されるがそれらをもってしても十分とは云えず,さらに他の因子の関与もあり得る.

なお,著者らは,焙煎油を用いてフライ(180℃ 前後)した場合にセサモリンが急激に分解し,一時的に多量の抗酸化性物質セサモールが生成することを見出した.

ここに生成したセサモールは,徐々に分解されるが,フライ後の油の酸化安定性やフライ食品の酸化的劣化防止に大きく寄与することが明らかにされた.

「セサモール含量だけでは説明できない」ので、まだ酸化されにくい他の物質があるのでしょう。

ただ、焙煎油を高温にすると、セサモールが一時的に多量に生成すること。それが時間の経過とともに減少していくと書かれています。できたセサモールは油の酸化安定性に寄与していると書かれているので、セサモールが関係していることは間違いないでしょう。

しかし、未加熱の焙煎油にはセサモールは下の表を見ていただくとおわかりになると思いますが、ごく微量しか入っていません。

この状態での酸化安定性を説明できないのです。

ゴマ油(焙 煎油及びサラダ油)加 熱時(180℃, 2時 間)の 抗酸化性物質の変化(mg/100g)
抗酸化性物質 焙煎油 サラダ油
未加熱 加熱 未加熱 加熱
セサモール 5~10 100 Trace Trace
セサミノール Trace Trace 80~100 80~100
トコフェロール 30~50 30~50 20~40 20~40
メラノイジン + +
※「ゴマの食品科学」日本食品工業学会誌 第35巻 第8号による

この論文は、1988年に掲載されたもので、かなり時間が経っています。また、その後の話を検索してみて、新たにわかったことがあれば、記事を書き足します。

NOTE

ごま種子にはもともとリグナンの一つ、セサモリンという物質が含まれています。セサモリンは加熱されると、ゴマサラダ油の場合は、セサミノールになり、また、焙煎油の場合には、セサモールとして酸化を防ぐ働きを持ちます。

ただし、セサモールは、加熱後時間とともに減少するので、焙煎油のきわめて酸化しにくい性質を説明するには少なすぎます。

まだ、他に酸化を防ぐ成分があると思われます。

しかし、ゴマサラダ油も焙煎油も酸化されにくい油であることは間違いありません。

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