スピルリナの脂肪酸組成はDHA主体に変えられる

スピルリナ粉末に含まれる脂質は2~9%で、脂肪酸組成は飽和脂肪酸のパルミチン酸が多く、次いで、γ-リノレン酸、リノール酸とあまり魅力的ではありません。しかし、たとえば培養液に0.1%DHAを加えると、含まれる脂質が26%に増え、脂肪酸組成の70%がDHAになります。スピルリナの脂肪酸組成は変えることができます。

スピルリナ

以前からスピルリナに興味を持っているのですが、やっと脂肪酸組成がわかりました。

乾燥物の2~9%が脂質

海藻の科学 (シリーズ「食品の科学」)を読みました。1993年の本です。古本を買われる方、新品の本体価格は3500円(税抜き)でした。ご参考まで。

スピルリナ粉末の粗タンパク質,脂質,炭水化物,粗繊維,灰分の含有比はそれぞれ50~70%,2~9%,10~20%,1~4%,5~10%である.

これらの数値は培養条件次第でかなり変わるが,タンパク質と灰分の変動幅がとくに大きい.

乾燥物で2~9%なので、少ない感じです。しかし、さらに脂質の説明にはこのように書かれていました。

窒素を欠乏させると脂質が17%近くになることも

微細藻の脂質含量は窒素欠乏下で増加する傾向があり,スピルリナでも17%近くの例も報告されている。

窒素を欠乏させるとタンパク質ができにくくなります。アミノ酸には必ず窒素が入っているからです。その分脂質が増えるのかもしれません。

大豆は含油率が20%でした。17%だといい線いってますね。脂肪酸組成はどんな感じでしょう?

スピルリナの脂肪酸組成

スピルリナの脂肪酸組成の特徴は、飽和脂肪酸のパルミチン酸が一番多いことです。40%弱あります。次に多いのは、オメガ6のγ-リノレン酸が20%程度、次いでリノール酸が平均すると15%程度あります。

そして、α-リノレン酸などオメガ3の脂肪酸は含まれていないようです。

表にあるS.platensisS.maximaは、工業規模で培養されているスピルリナの品種です。

脂肪酸組成(%)
脂肪酸 S.platensis S.maxima
14:0(ミリスチン酸) 1.0 1.4
16:0(パルミチン酸) 36.1 37.5
16:1 n9(パルミトオレイン酸) 14.3 12.9
17:0(ヘプタデカン酸) 1.4
17:1(ヘプタデセン酸) 0.3
18:0(ステアリン酸) 1.7 1.7
18:1 n9(オレイン酸) 3.0 1.3
18:2 n6(リノール酸) 17.9 13.2
18:3 n6(γ-リノレン酸) 20.7 22.5
20:0(アラキジン酸) 1.0
未同定 2.6 9.5
※海藻の科学(朝倉書店 1993)

この表のスピルリナの脂肪酸組成を見ると、正直、あまり魅力を感じません。ところが、脂肪酸組成は変えることができるのです。

脂肪酸組成は変えることができる

ドコサヘキサエン酸富化スピルリナ Spilurina platensis の調製と脂質特性を読むとスピルリナにDHAを取り込ませる実験について書かれていました。

まずは、スピルリナにDHAを取り込ませた結果、どうなったか結果の表がありましたので載せます。

英語を日本語に書き換え、体裁を上の表と同じようにして書き直しました。数字は、脂肪酸全体を100としてそれぞれの脂肪酸の%を示しています。

「対照」は、何も操作しない場合の結果です。

総脂質
脂肪酸(%) 対照 DHA強化
14:0(ミリスチン酸) 1.5 0.3
16:0(パルミチン酸) 34.2 11.3
16:1 n9(パルミトオレイン酸) 0.4 1.2
16:2(ヘキサデカジエン酸) 0.7 0.2
16:3(ヘキサデカトリエン酸) 0.3 Tr
18:0(ステアリン酸) 1.1 0.4
18:1 n9(オレイン酸) 5.4 0.6
18:2 n6(リノール酸) 13.5 3.8
18:3 n6(γ-リノレン酸) 22.1 5.5
20:3 n3(EPA) 2.3
22:6 n3(DHA) 2.6 70.2
※ドコサヘキサエン酸富化スピルリナ Spilurina platensis の調製と脂質特性より

脂肪酸組成が変わり、DHAが70%を占めています。

どんな条件でスピルリナはDHAを取り込んだのか?

培養液に対して遊離脂肪酸DHAを0.1%添加すると、乾燥細胞中の総脂質含量は、何も添加しないものが13.2%でしたが、26.0%と大きく増え、さらに、脂肪酸組成のうちDHAが70%となりました。

脂肪酸だけを取り込む

遊離脂肪酸として存在していると取り込めますが、それ以外の形ではだめでした。

本研究の結果では遊離脂肪酸は取り込み可能であるが脂肪酸エチルエステル,TG は取り込まなかった。この傾向はDHA のみならず,エイコサペンタエン酸エチルを添加した実験でも取り込みが認められなかった。

脂肪酸エチルエステルは、DHAの端にあるカルボキシ基にエチルアルコール(お酒のアルコール)が結合したものです。

DHAとDHAエチルエステル

また、TGは、トリグリセリド、中性脂肪、つまりグリセリンに3本の脂肪酸がついた普通の油のことです。たとえばDHAが豊富な魚油をそのまま取り込むことはなかったということです。

DHA以外の脂肪酸も取り込める

さらに、遊離脂肪酸としてなら、スピルリナは他の脂肪酸も取り込むようです。

一方,ここには示さないが,遊離脂肪酸についてはオレイン酸,リノール酸,a-リノレン酸,アラキドン酸,エイコサペンタエン酸(EPA)について取り込みが認められ,幅広い脂肪酸についてスピルリナ細胞を富化することが可能であった。

脂肪酸がコントロールできると性能のよい高タンパク食品になる

とても面白い記事、生スピルリナの研究開発とタベルモ事業の挑戦によると、そもそも、スピルリナは高タンパク食品です。タンパク質が50~70%とはすごい。

一般的に,スピルリナはタンパク質50–70%,炭水化物15–25%,脂質6–13%,核酸4.2–6%,ミネラル2.2–4.8%から構成される.

消化率は83–90%と他の微細藻類に比べ非常に高い.

この記事に書かれているようにスピルリナが、健康食品から日常的に食べる普通の食品になるとよいと思います。特に日本人は、海藻や藻を食べることは乾燥でも生でも抵抗がありません。

その時に、脂肪酸もコントロールできると、高タンパクで必要な脂肪酸もとれる理想的な食品になるかもしれません。

スピルリナは培養しやすいのでは?

スピルリナのよいところは、培養条件が強アルカリなことです。やや特殊な条件なので、培養しやすいのではないかと思います。以前書いた、スピルリナって自分で培養できるのかな?からです。

現在,スピルリナの自生が確認されるのは主に熱帯地方の湖で,それも強アルカリ性の特殊な水質の湖に限られます。こうした環境が,他の細菌や藻類に侵されることなく長い間絶えずに生き続けてこられた理由の一つと考えられています。

他の菌が生存しにくい環境で培養するということは、大がかりでない(あまりお金のかからない)装置で培養できるのかもしれないと思っています。

藻を食料とする考えは昔からあります。クロレラなどもそうでした。しかし、どれもこれも健康食品として販売されて終わりで、毎日食べるようなものにはなっていません。

スピルリナには期待したいです。

NOTE

スピルリナに興味を持って、ドラッグストアで2回、打錠されたスピルリナの大びんを買ってきて飲んでいたことがあります。しかし、2回とも途中で飽きて飲まなくなってしまいました。大びんを買ったのは、スピルリナがとても安いからです。

私は性格的に長続きするタイプなのですが、途中で止めてしまったのは、噛むと粒が固いのと、多分、味があまりおいしくないからだと思います。粒がエビオスとかビオフェルミンくらいの固さなら多少不味くても続いただろうなと思います。

先ほどの生スピルリナの研究開発とタベルモ事業の挑戦にはこのように書かれています。

現在販売されているスピルリナ製品の大半は,乾燥品を原料とした製品である.乾燥品は,製造の加熱乾燥工程における細胞の破壊,およびそれに伴う各種成分の変性が原因で,不快な匂いと味が発生してしまう.

乾燥スピルリナは湖沼に自生するアオコ様の臭気とコンブやノリ様のえぐみをもつため,食材として利用することが難しい.

スピルリナをすすめられたのは、仕事で知り合った漢方の先生からです。葉緑素が体によいというのでその気になったのですが・・・。

ただ、値段が安いことと、タンパク質が多いことが魅力だと思っています。これで、脂肪酸組成が変わるともっと魅力的なんだけれどなあと思います。

そして、何より、スピルリナのような藻は増殖のスピードが速いのです。

その他の水産物とオメガ3については、水産物の中のオメガ3をお読み下さい。

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